実際にこのデッキの話が始まるのは中盤の以降なので、思考掃きがどう強いのかなんてもう知ってるよ!って人はそこまで飛ばしてください。

■前置き~そもそも何故《思考掃き/Thought Scour》を使うのか~

話が早くなるので、市川プロの記事を読んでください。

https://note.mu/triosk/n/nd1ae3c66da43

そもそもこれを読んでくれる程レガシーに熱心な方は全員既に読んでいると思いますが。無料部分で前史と概略が述べられています。

一応私自身の考えも述べておくと、私がこの思考掃き型を使おうと思ったのは、《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》亡き後のグリデルのとにかくもっさりした感じが好きになれないからです。

禁止改訂直後はグリデルはデッキパワーの大幅な下落による衰退を予想され、テンポ戦略はトレードマークの《もみ消し/Stifle》を携えてカナディアンスレッショルドが復権するというのが巷の噂でしたが、蓋を開けてしばらく経ってみると、結局グリデルはかつての最強デッキの地位こそ取り戻してはいませんが、メタゲームの一線に復帰し、デルバー系列のデッキの中では依然として筆頭です。ただし、最近のグリデルはマナクリーチャーとしての働きも大きかった《死儀礼のシャーマン/Deathrite Shaman》を失ったにも関わらず、2~3マナ圏の重めのクリーチャーが多数採用されたままであるため、土地を増やして《定業/Preordain》を入れる等でマナを補正しており、純粋なテンポデッキらしさはかなり薄れています。しかしながら、テンポとしては重い形であるものの、結局目標は相手のライフを削り切ること以外にありません。結果として、デルバーの有無次第で勝率がかなり変わってしまいます。特に対コンボにおいてはそれが顕著で、初動デルバー即変身を除き、メインのソフトカウンターと少量のハンデスの組み合わせで防ぎ切れるターンまでに相手を倒し切ることは中々厳しいです。

たった4枚しかないカードを初手に引けるかどうかに命運を託すのは賢明な選択でしょうか?特定の4枚積みカードを初手に引ける確率は4割程ですが、キープするためには現実的にゲームが可能なハンドの中にデルバーが居る必要があるので実際にはもう少し下がります。青マナが初手にあるのは青マナソース14枚として85%程、従ってデルバーを初手でぽんと出せるのは33%、3回に1回です。結構低いですよね。デルバーデッキはマリガン耐性が低いので、デルバーが居ないからマリガン!という選択は不可能です。基本的には引いた初手で戦うしかありません。

さて、レガシーにおいてはだいたい18点ダメージを与えれば相手のライフが尽きると考えて良いです。つまり初手デルバーだと6回殴る=7ターン目に相手が死ぬわけですね。ここで、もう1種類極めて高速なクロックがあればどうでしょう。例えばそう、5/5が3ターン目に出てきて殴り始める場合、4回でいいのでやはり7ターン目に相手は死にます。しかし、普通の構成のグリデルでは3ターン目にアンコウを出すのはかなり難しいです。T1:フェッチ、キャントリップ。T2:フェッチ、キャントリップ、何かで相手に干渉、T3:2マナで5枚追放、アンコウキャスト。理想的にはこのようになりますが、引く土地の種類にまで制約のかかったこの類の動きをできることは多くありません。

《思考掃き/Thought Scour》採用は通常非現実的な3ターン目アンコウの確率を高めるためです。思考掃きを4枚採用する場合で、3ターン目=初手含め合計9枚に青マナ1、アンコウ1、思考掃き1が揃っているのはほぼ20%。(思考掃き3枚は15%、2枚は10%です)わかりやすくするためにこれらが揃えば3ターン目に確実にアンコウが出ると仮定すると、初手デルバーor3Tアンコウが実現するのは47%。だいたい2回に1回まで上昇しました。2回に1回位はテンポデッキとして理想的なクロックの展開ができる。これは思考掃き不採用のグリデルには真似できない魅力です。

■高速アンコウってそんなに強い?

《剣を鍬に/Swords to Plowshares》が採用されないデッキ相手には非常に強いです。これ以外の環境の基本的除去の範囲外なのが最大の強みで、安定して高速なクロックを刻むことを期待できます。ならば白いデッキの存在率は?となりますが、MTGGoldfishのMeta%によれば合計2割程度でしょうか。しばらく前に変わった掲載方式の都合上、これは実際に何と当たるかの指標としては全然信頼できないとは思いますが、手元で集計している最近のレガシーリーグにおける対戦数のデータでも一応白系デッキの合計は2割程度(各デッキの比率は違います)なので、まぁざっくりその位、雑に多く見積もったとしても3割を超えることはない、この位には考えても良いと思いますす。

白いデッキは大まかに《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》で使い回す(奇跡、石鍛冶)か、盤面を固める(デスタク、マーベリック)かに分かれますが、どちらもアンコウが非常に苦手なことなのでこれらを相手にした時には大きな活躍は見込めません。ですが、環境の7~8割を占めるそれら以外のデッキに有効な戦略だと考えれば十分な強さでしょう。

■アンコウが出れば強いのは分かった、で、アンコウ引かない時は《思考掃き/Thought Scour》は弱そうだけど?

問題はここです。アンコウ専用とは言え、キャントリップ付きで次ターンにマナを持ち越せる《暗黒の儀式/Dark Ritual》は強いですが、ただの1マナ1ドローは流石に強くありません。墓地に2枚落とす部分を可能な限り有効に使いたい所ですが、実戦では必ずしもそうできるとも限りません。どうしても引きたい何かがあって、他のトップ調整手段を待つ時間的余裕がない場合はやむなくそのまま使うことになります。この弱い使い方がなるべく避けられるように調整すること、あるいは適当に撃った後でも良い結果を得やすくすること、これが思考掃きデルバーの構築時に頭を使うべきことだと考えています。

では、実戦でどんな時にそうなりやすいのかと考えれば、最も発生頻度が高いのはマナスクリューでしょう。不毛される、思案で見つかると思ったがなかったのでシャッフル、そんなこんなで土地が詰まってしまって思考掃きしかドローが手札に無い場合、弱いと承知で土地を探すために撃たざるを得ません。このケースをなるべく減らすため、土地の枚数は気持ち多めにとっておくべきだと感じています。ただし、こう聞いただけでは当然今度はマナフラッドを心配することになると感じるでしょうが、私はその点はあまり気にしなくていいと思います。何故なら、思考掃きの二番目に強い使い方はトップの不要な土地を叩き落としてライブラリーを濃くした状態でドローすることだからです。中盤以降は基本的にこれを目指して使うことになるため、思考掃き型は重度のマナフラッドの予防はしやすいです。

故に、土地を限界まで絞るよりも、弱い撃ち方をなるべくしなくて済むように少し余裕を持たせて作った上で、積極的に土地を落として質の優位を得ていくという方針を取るのが安定性も高まり、マナスクリュー時に1マナドローで必死に土地を引き込む動きに伴うテンポの損失も発生しづらくなって良いと思います。私はこれを「《渦まく知識/Brainstorm》で土地を探しに行くのは弱い使い方なのでなるべく避けたい」という話の応用編という感覚で捉えています。

ただし、思考掃きが予防してくれるのはあくまで重度のマナフラッドであって、アンコウのため、あるいはスクリュー脱出のためにトップ確認無しで撃った数ターン後、盤面と手札に土地が合計4枚程度の軽度のマナフラッドが発生してしまう可能性は、定業型よりも実は高いと思います。思考掃きで落ちるトップ2枚がランダムである場合、土地を18枚に絞ったとしても土地18+思考掃き4の組み合わせは、かかるマナを無視すれば単純にデッキの総数を4枚減らしていることに相当するので、土地19+定業2のパターンと比較するとむしろ土地比率が高くなっており、当然マナフラッドする可能性は多少高いです。

■ならどうするか:

まとめておくと、思考掃きは各種マナトラブルに関して以下のように働きます。

マナスクリュー:他2種で探した後のドローロックの解消には貢献するものの、単体ではただ1枚引くだけなので微妙
マナフラッド(軽度):むしろこれの発生頻度は高まる
マナフラッド(重度):予防に一定の貢献をする

ということは、マナスクリューになるべくならないマナベースにした上でマナフラッド(軽度)の時に強いカードをデッキに入れておくようにすれば、理屈の上ではブン回りパターンの発生率がやや高いため初速に優れ、それでいてリソース勝負に強いカードも入っているのでアンコウに対処された時の脆さをも補ってくれるデッキが完成するはずです。


実際のデッキリスト

https://www.mtggoldfish.com/deck/1591409#online

こんな感じになりました。対戦数が多くはないので大した意味はないですが、勝率は65%でした。

グリクシスではなく青黒になった理由を説明すると、

・マナフラッド(軽度)の受けとして一番強いのが《最後の望み、リリアナ/Liliana, the Last Hope》
・アンコウが弱い横並び戦略と、宿敵でのビタ止まりの両方に対処できて効率が良いのが《湿地での被災/Marsh Casualties》

という2点によって黒ダブルシンボル(以下BB)のサイドカードをとても使いたかったのですが、3色だとBBが厳しい、島のついでに《Badlands》を入れて出せるようにしてみても不安定さが気になる、ということで思い切って赤を抜いて青黒に絞っています。2色だと、前述の余裕を持たせた土地としてサブカラーの基本土地を取ることが可能なので、かなりマナベースの安定性が増します。アンチ特殊地形カードでの即死が減ることと、基本土地×2+使い捨てのデュアランという形で運用することで、相手に不毛があっても3マナまでの到達を計算に入れて良くなるのが魅力です。

難点は除去がはっきり弱くなったこと、アーティファクトを簡単には割れなくなったこと、そして一番大きいのが《紅蓮破/Pyroblast》の欠如。色の選択についてはカードパワーとマナの安定性のどちらを重視するかのトレードオフなので、グリクシスのままでも良いとは思います。グリデルの時はマナフラ受け枠として《コラガンの命令/Kolaghan’s Command》を1枚使ってみていました。

以下は簡単な各カードの採用理由です。

《最後の望み、リリアナ/Liliana, the Last Hope》

前述のマナフラッド(軽度)の時に強いカード。高速アンコウ戦略が機能しない白いデッキ相手にはプラスか大マイナス、どちらかの能力が極めて有効で、それ以外にも小マイナスで《思考掃き/Thought Scour》で落ちてしまったクリーチャーを回収してリソースを生み出してくれる、《悪意の大梟/Baleful Strix》で塞がれた進路をアド損なく開けられる等を見込んでの採用。グリデルの時はマナベースの都合上サイドカードでしたが、BBと3マナという重さが厳しい点が色を絞ることで解消されたためメインに浮上、かつ2枚に増量しました。青黒2色だと、《致命的な一押し/Fatal Push》に継ぐ2番手除去の性能が非常に悪いのでその点を補って欲しいという意識もあります。

《苦花/Bitterblossom》
布告対策になり、2マナで出しっぱなしで良く、守る必要のないのが魅力のクロックです。また、特筆できるのが《若き紅蓮術士/Young Pyromancer》と違ってトークンが飛行を持っている点で、これによりアンコウ以外は全て回避能力を持っていることになります。これらの黒いパーマネント2種は強い相手には強いものの弱い相手には働きが少ない点が問題ですが、「思考掃きで墓地に落としてしまえばそのゲーム中引き直すことがない」点をこれの一応の解決策としています。

《真の名の宿敵/True-Name Nemesis》
回避能力と除去耐性を備えたスーパーカード、ただし重くて遅いのが難点。アンコウが弱い相手に強いカードなのが最大の利点。また、現状のデルバー系には細かい枚数はともかくほぼ採用されているので、こちらも何枚かは使っておかないと、相手に出された宿敵でこちらのアンコウがずっと止まって打開できずにそのうち相手にもゆっくりながらアンコウが出てきて/相手に何かでアンコウを対処されて、回避持ちのこれに一方的に殴られて負けというパターンが発生してしまいます。こちらも2色で絞ったことで安定して出せるマナまで到達できるように。

デルバー4+アンコウ4+宿敵+苦花という構成についてですが、クロックをこの組み合わせにすることで、稲妻や一押しのような軽量で一般的な除去がデルバー以外には当たらなくなり、こちらの攻勢への相手の対応が噛み合わなくなる可能性が高まります。ネメシスは3でもいいとは思います。

《呪文貫き/Spell Pierce》3(サイドにもう1枚)
《思考掃き/Thought Scour》の利点である、インスタントなので撃つタイミングを選べる点を活かしたいのと、青黒の難点である着地後の置物に触れない点の対策として多めに。最初は4枚でしたが、ダブついた時の消化の難しさがやはり気になったので、この軽量妨害枠のスロットを1枚《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》に入れ替えて3枚としています。

ただ、置物系デッキには複数枚欲しいのも確かなので、《狼狽の嵐/Flusterstorm》が取られがちなサイドの枠に4枚目を入れることにしてみました。

《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》

重めのカードの前方確認用と、能動的に使って墓地にカードを貯めやすいカードが欲しいことから、やはりハンデスが多少かは欲しいと感じます。アンコウの前の《剣を鍬に/Swords to Plowshares》チェックも兼ねて。苦花との相性の都合上メインに思考囲いはNGなのでこちら。枚数は悩ましいところですが、今回は他のカードを埋めていった結果として1枚のみスロットが空いたのでそこに入りました。

《思考掃き/Thought Scour》3
2枚重ね引いた時、どちらかは適当に撃たざるを得なくなる可能性が高くて弱いので、重なる確率が減るようい3枚でもいいんじゃないかなぁ……?という気がしていますが、ここにはまだ明確な理由付けを出来ていないので4枚で特化させる方が良い可能性は十分あります。

《Underground Sea》4
アンコウとの相性上、これを3にしてフェッチを増やしてもいいですが、《思考掃き/Thought Scour》でマナを出せる土地を落としてフェッチ先が枯れる可能性を考慮して多めにしました。

■サイド考察

《湿地での被災/Marsh Casualties》2

《思考掃き/Thought Scour》型は大量のトークンや小型クリーチャー、そして《真の名の宿敵/True-Name Nemesis》にアンコウを止められてしまうと戦略上厳しく、それらに対し極めて有効な回答となるこのカードをできれば使いたいのですが、グリデルで《不毛の大地/Wasteland》が入った相手にこれを使うとマナベース上非常に問題があります。安定してこのカードを使いたいというのが青黒に絞った理由だと言っても過言ではありません。

他のカードとこのこのカードの差が最も大きいのが対グリデルです。赤い全体除去が手札にある時に宿敵、布告が手札にある時にヤンパイ、と除去が噛み合わずにそのまま負け、というのがグリデルミラーで負ける時に起こりがちなパターンでした。現在のグリデルが環境で最も強いかはともかく、最多の数を誇るデッキの一つであることは間違いない上、多少アンコウが多かろうが殆どの構成要素が等しい以上はミラーの勝敗はその時次第です。そのため、何かしらの有利が取れる要素が欲しいと私は思っています。

《水流破/Hydroblast》
赤単プリズン対策……と言いたい所ですが、赤単プリズンの構成要素の中で、このデッキが本当に辛いのはチャリスと罠の橋の2種類のアーティファクトなのでそこまで対策になっていません。正直に言うと、枠が余ったのでグリデルや他の色のデルバーでは中々枠の都合上入れられない《水流破/Hydroblast》の使い勝手を確かめるのが入れた目的としては大きいです。

《無のロッド/Null Rod》
採用理由としてはストームやデスタクを意識してという話になりますが、これもやはり他の色で枠争いに敗れがちなこのカードの検証という面の方が大きいです。

*《無のロッド/Null Rod》と《漸増爆弾/Ratchet Bomb》の共存について
同時に入れる相手はほぼ居ないので問題ないと思っています。デスタク相手に《漸増爆弾/Ratchet Bomb》は、カウンターを貯めた所で《ちらつき鬼火/Flickerwisp》にカウンターをリセットされる可能性があるので入れたくないですし。ストーム相手の3枚目以降のトークン用除去のとしての《漸増爆弾/Ratchet Bomb》の評価や、《湿地での被災/Marsh Casualties》の枚数によっては共存することになって問題があるので、その場合《無のロッド/Null Rod》が不採用になると思います。

《漸増爆弾/Ratchet Bomb》
弱いので入れたくないですが他のチャリスに対処できる選択肢は(チャネルが死の影で使っていて話題になった)ゲスの玉座位です。流石にCMC2が上限のEEよりはこちらの方がマシですし。

墓地対策3
MOは墓地コンボが多いので多めに取った方が無難だというのが定説です。また、青黒だと悲しいかなサイドカードの選択肢が狭く、枠が余ってしまう都合上、自然と墓地対策が厚めになります。

■不採用にしたカード

《呪文嵌め/Spell Snare》
クリーチャーだろうが、置物だろうが、マナが潤沢に余っていようが、対象に取れさえすればカウンターできるのが大変強いカードなのですが、適切なタイミングで引いた上で浮かせたマナに相手が突っ込んで来てくれないと真価を発揮できないカードなのが好きではないため不採用になっています。《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》や《悪意の大梟/Baleful Strix》をアド損なく対処できるのは間違いなく強いとは思います、《紅蓮破/Pyroblast》がないので特に。今回は《最後の望み、リリアナ/Liliana, the Last Hope》での事後的処理を優先する方針にしました。

《トーラックへの賛歌/Hymn to Tourach》
このデッキはあくまでグリデルからの延長として、マナベースの安定を目的として2色に絞ったデッキであるため、ヒムの採用率が高いBUG系とは成り立ちが異なります。まず、このカードを《思考掃き/Thought Scour》によるアンコウの高速召喚というメインコンセプトと齟齬のない形で使うならば「2ターン目に《Underground Sea》2枚からキャスト」以外の形にはなりませんが、これはマナベースの安定という目的と真っ向から矛盾してしまいます。また、これを2ターン目以外にも撃って、手札の除去を落としてからゆっくり展開する方向性ならばそもそも《思考掃き/Thought Scour》は不要です。総合して、カードパワーは高いもののデッキに合っていないので不採用です。

《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》
《思考掃き/Thought Scour》からの再利用というのは見た目は綺麗ですが、青黒2色でなおかつヒムも無いため、わざわざこれでFBしたくなるほどのスペルがありません。

《狼狽の嵐/Flusterstorm》
ピアスの項での理由です。別にあってもいいですがないと駄目なわけでもないので今回は不採用に。

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mw

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